昨今、MBO(Management Buy Out:経営陣による買収)のニュースをよく見かけるようになった。しかし、これらほとんどすべてのMBOは、投資ファンドによる買収に経営陣も少し出資するというもので、投資ファンドが株主議決権の90%以上を持つものである。経営陣および社員が100%の議決権を持つ純粋のMBOは、いまだに昨年のワールドしかない。このワールドの案件では、上場の意味についていろいろと考えさせられた。 本邦初、100%経営陣による買収 振り返ってみると、ワールドの寺井秀蔵社長と小泉敬三常務(現専務)に初めてお会いしたのが一昨年の秋。当初は数多くのアパレルブランドを展開するワールドの、「あるべきコーポレートストラクチャー」についての問いかけだった。半年ほど議論した結果、昨年の3月末に、誰もやったことはないが、経営陣が100%の議決権を持った形での純粋のMBOで非上場化するのがいいという結論に達した。前人未到につき、そのときに成功確率を尋ねられれば、3%未満と答えたであろう。 それから約1カ月かけ、詳細なキャッシュフロー・シミュレーションモデルを作成した。それをベースにいろいろなケースを想定してみたが、このプロセスを通じてプロジェクトチームの面々は、「この本邦初の純粋のMBOが本当にできるかもしれない」との思いを強くした。 その後、銀行と買収の融資交渉に臨んだのだが、1700億円程度が限界であった。不足していたのは525億円であった。この不足分は、メザニンと呼ばれる優先株、劣後債で埋めるしかなかった。いくつもの金融機関と交渉し、やっとの思いでこのメザニンも調達し、昨年の7月25日、大阪でワールドの非上場化の記者会見が行われた。その後、1カ月余りのTOB期間を経て、今日、ワールドは非上場となり、社員の方々約30名が株主の会社となっている。日本で前例のない、社員が100%の株主議決権を持った純粋MBOの完成である。 ワールドはその後、当初予想を上回る好業績株 を続け、有利子負債も前倒しで返済するなど絶好調である。嬉しい限りである。このまま順調にいくと有利子負債はさらに減り、株式価値は増大する。今の好調さを持続できれば、数年後に再度、受け皿会社が資金調達し、現在の株主から株式を買収し、社内でのオーナーチェンジを試みることになるであろう。自社内でオーナーチェンジができる日本で初めての試みである。これまで非常に順調に業績も推移しているようでワールドの今後に注目したい。 上場のメリットとデメリット 私自身、上場する意味はあると言ってはきたが、実際にこの10月6日にGCAをマザーズに上場させて改めて、上場の意味を実感した。会社を上場させる意味は実に大きい。名もない会社を大きく飛躍させるためには、会社に信用力、資金力をつける必要がある。そのために、会社を上場させることは非常に大きな力となる。未上場の個人会社であれば財務状況も不透明で、どうしてもいつ解散するかもしれないという不安感がつきまとう。そのような未上場の会社に参加しようとする人のハードルは高く、そのような会社を初めてアドバイザーに起用しようとする企業のハードルも高い。しかし、上場していれば、会社の財務内容は公開されているし、会社の重要事項は逐次開示される。上場しているということは、会社が公器として永続しようとする証しでもある。
一方で、デメリットもある。上場していると誰でも株主になれ、株主が競合他社でも事業の情報を開示しないといけない。これは、天に向かって企業情報を大声で叫び続けなければならないようなもので、その声が小さければIR(投資家向け広報)が良くないと市場から叩かれる。また株主総会を開催するにも2カ月もかかってしまうといった機動力の低下などは、明らかに上場していることのデメリットである。 上場当初は、GCAのようにこれらのデメリットをはるかにしのぐ資産運用 があるのでいいものの、業績が順調な企業の場合、企業の信用力、資金力がつくにしたがってこの上場メリットは徐々に減少していく。そして、ある時点からはこれらが逆転し、ワールドのように、デメリットがメリットを上回るようになることもある。 純粋MBOによる非上場化という選択肢 ワールドと同時期に非上場化したポッカコーポレーションや今年のすかいらーくのようにファンド主導の非上場化は従来からあったが、ワールドの例は多くの条件がそろってやっと成立する、前述のように経営者と幹部社員が100%の議決権を持った日本で初めての純粋なMBOである。決して敵対的買収の防衛策ではなく、会社自体の価値を上げたいという純粋なものである。この純粋MBO型の非上場成立要件の主なものは、社長の経営力と人間力を核とした経営陣の質の高さ、事業の安定性と成長力、財務体質の健全性、出資者および融資団のスキームに対する理解、従業員のサポート、妥当な株価と買収プレミアム(上乗せ価格)というところだろうか。 それにしても、どうしてワールド以降、経営陣が100%あるいは過半数の株主議決権を持った同様の純粋なMBOはないのだろうか。これは、一般にバイアウト・ファンドのMBOと称して「投資ファンドが過半数の議決権を持った非上場化」の提案を受けて、経営陣が非上場の検討を始めるからだと推察される。 経営陣が非上場化の検討をする際は、まずはメザニン投資できる投資家とワールド型の純粋MBOを検討し、それでは資金調達が難しいときにバイアウト・ファンドの活用を考えるべきである。ワールド型MBOを実現できれば、完全に経営陣と社員の会社になるが、バイアウト・ファンドが過半数の議決権を持つ昨今の「セミMBO」だと、ファンドによりいつでも経営陣は変えられるし、2〜3年後どこかに売却されてもおかしくない、経営者にとっては不安定な形でのMBOだからである。短期的利益を追求するファンドと長期的成長を目指す経営者との利害調整は容易ではない。GCAの子会社の株式会社メザニンも687億円のメザニンファンドを組成しているように、日本の資金調達手段は多様化している。非上場化検討の際には、枠にはまらない柔軟な発想で考えてみることをお勧めしたい。
日本の再生M&Aにおいては、主力銀行の関連証券会社が債務者のM&Aアドバイザーになるケースが多かった。およそ2年前の例で言えば、産業再生機構が出資する前、ダイエーのアドバイザーを主力3行の関連証券会社が務めていた。カネボウも主力銀行の関連証券がアドバイザーであった。 “利害関係者”がアドバイザーを務める矛盾 これら銀行系証券会社のM&Aチームの力量は評価するとしても、親銀行が債務者の主力取引行であるという構造上、親銀行の利益よりも依頼元の利益を優先できるかというと、それは困難と言わざるを得ない。 銀行系証券会社は、親会社である銀行とファイアウォールがあるという。しかし、子会社である証券会社の人事権は、実質的に親銀行が持っているケースもあるのではないか。そのような状況で、本当に依頼元である債務者の利益を優先し、債権者である親銀行と対峙(たいじ)できるのだろうか。それは極めて困難な仕事ではないだろうか。 最近の例で言えば、フタタのケース。コナカのメーンバンクでAOKIホールディングスとの取引の薄い銀行がフタタのアドバイザーを務め、その意見をもとにフタタの経営陣は意思決定したとされる。銀行がメーン先を差し置き取引のほとんどない企業をサポートする意見を言うはずがない。日本では、まだ、このようなメーン銀行との利益相反問題に極めて疎いと言わざるを得ない。 その他、外資系投資銀行の中には、売り手側である売却対象の企業の株主でありながら、買い手側企業のアドバイザーをしていたりすることもある。これでは、買い手側のアドバイザーであるにもかかわらず、買収金額が高い方がその投資銀行の収入が増えることになってしまう。 M&Aに仲介はなじまない 一昔前の証券会社のM&Aは不動産売買のように仲介が普通であったが、バブル崩壊後M&Aが本格化するにつれ、仲介ではなく、売り手か買い手のどちらかの側に立ってアドバイスをするようになった。売り手は買収金額が高い方がよく、買い手は安い方がいい。売り手はM&A後、何か問題があっても受け取ったお金を返却したくないし、買い手は何か問題があれば売り手に補償を請求したい。M&Aの契約書の各条項で売り手と買い手の利益は対立する。また、売り手ができるだけいい条件で売却したくても、仲介だと買い手候補はひとつしかなく選択の余地はないし、売り手側の交渉力も弱くなってしまう。 しかし、最近はまた、金融機関が売り手と買い手の間に立って仲介をするケースが増えてきたと言われる。この仲介自体が売り手側の希望の場合は許容できるが、取引銀行が貸し金のあることを背景に強要していたなら、それは問題である。借入金過多により売却せざるを得ない企業は、どうしても取引銀行の圧力に反発できない。日本M&Aセンターの場合のように、売却相手を探すことをその主要な目的にする仲介はいいとしても、原則M&Aに仲介はないということをよく認識する必要がある。いわんや、貸し金があることを背景に売り手に仲介を強いる行為は許されるべきではない。 顧客側に立つ真のプロが必要 上記のように日本のM&A市場においては、あちこちで利益相反問題が存在する。しかし、これまで全くと言っていいほどこれらについて問題視されてこなかった。このような状況は、利益相反に敏感な米国においては考えられない。 では、それはなぜか。それは、銀行に資金を依存している企業に対する銀行の圧力が大きな要因であるように思える。また、何の利害関係もないしっかりした独立系のM&Aアドバイザリー会社がこれまでなかったこと、M&Aのアドバイザーをしている人の数は増えたが、顧客の立場に立つ真のプロはわずかであったことに起因すると考えられる。残念ながら、M&A案件を紹介する程度の独立系の会社は存在しても、大きなM&A案件を取り仕切れるような独立系のM&Aアドバイザリー会社はなかった。しかしこの問題を放置していいものではない。M&Aにおける利益相反問題についての世の中の理解が望まれる。
消費不況でも11月過去最高の売上高 ユニクロ快進撃の裏に“5年の努力” 「好調だと聞いていたが、この数字は想像以上だ」(業界関係者)。今のユニクロの勢いには、個人向け国債 の誰もが舌を巻く。 ファーストリテイリングが発表した11月の国内ユニクロ事業の既存店売上高は前年比32.2%増となり、単月では過去最高の売上高を記録した。発表翌日12月3日の同社株価はストップ高。翌4日も値を上げ続け、過去5年間の最高値である12830円に迫る勢いだ。 11月は休日が3日多かったとは言え、現在、衣料品の販売状況はどん底。百貨店の衣料品売上高は総崩れで、しまむら、ポイント、ハニーズなど他の衣料品専門店各社の既存店前年同月比も軒並み前年割れだ。文字通り、ユニクロだけが好調なのだ。 最大の要因は、春夏商品の処分を前倒しで行ない、秋冬商品の展開を昨年よりも早めたことが挙げられる。加えて、現在同社では500坪前後の大型店を大量出店している。売り場面積が広がったこともあり、8月後半には大型店舗を中心にダウンジャケットなどの秋冬主力商品を並べることができた。その結果、ユニクロの秋冬商品の認知が上がり、気温が下がった9月中旬に、売り逃がしを最小限に抑えることができた。 また、すべての基本となる「商品力」を伴っていることも現在の好調を支えている。ヒット商品「ヒートテックインナー」は、現在の品質に至るまで約5年の歳月を費やしている。発熱性、保温性、保湿性、ストレッチ性、抗菌防臭性の5つの性能に加え、風合いと着心地の改善を繰り返した。「何度作り直したか分からない」(白井恵美執行役員商品本部ウィメンズMD部部長)ほど改良を重ねた。 こうした地道な努力が今期、ようやく花開いた格好だ。「ヒートテックインナー」は、今期2800万枚の販売計画を立てている。 課題をあえて挙げるなら、販売予測と生産計画に、今年も若干のズレが生じていることか。昨年同様、冬本番を迎える前に「ヒートテックインナー」の一部の色、サイズでは既に品切れ状態となってしまった。 このズレを克服することは同社にとっての永遠のipo となるだろうが、いずれにしても消費不況の中で、売り切れ商品が出てしまうほど顧客に支持されているユニクロは、他の多くの小売企業からは見れば、羨望の存在だろう。